多頭飼いの健康管理、問題点と対策

ペットの多頭飼いをしている飼い主様の中には、健康管理の難しさを感じている方も多いのではないでしょうか?複数のペットがいると、1頭ずつの健康状態を細かく把握することが難しくなり、異変に気づいたときには病気が進行していることも。そこで本記事では、多頭飼いにおける健康管理の課題と、その対策について詳しく解説します。

ポムどうぶつクリニック 院長  

椿 直哉

2004年に獣医師免許を取得、北里大学を卒業。個人動物病院での勤務を経験した後、2次診療動物病院、企業動物病院を経て、2021年よりポムどうぶつクリニック院長を務める。たんぽぽキャットクリニック(旧たんぽぽあだぷしょんぱぁく動物病院)および相模原北夜間どうぶつクリニックの院長を兼務。(一社)相模原市獣医師会会長。

問題① 個別の健康状態を把握しづらい

多頭飼いの場合、それぞれのペットの健康状態を把握するのが難しくなる要因がいくつかあります。たとえば、ごはんを出したときに全員が満足に食べているように見えても、実際には競争心が強い子が先に食べてしまったり、体調が悪い子が食べているようで実は食べられていなかったりすることがあります。

トイレの管理も同様で、例えば共用の猫トイレに血尿があったとしても「誰のものか分からない」という問題に直面することが少なくありません。そうすると、動物病院へ連れていくタイミングを逃してしまい、症状が悪化してしまうケースがあるのです。

また、病気の初期症状は見落としやすいものです。体調が悪いペットほど、他のペットに隠れるような行動をとることがあります。特に猫は、不調を隠してしまう習性があるため、飼い主様が異変に気づいたときには病気が進行していることも少なくありません。

問題② 動物病院へ行くハードルの高さ

「なんとなく調子が悪そう」と思っても、すぐ病院へ連れていくことが難しいという問題もあります。多頭飼いの場合、動物病院までの移動、待ち時間、診察の順番待ちなど、複数のペットを連れていくには相当の労力がかかります。大型犬や病院嫌いの子がいる家庭では、なおさらハードルが高くなります。結果として、少しの不調であれば「様子を見よう」となり、「気づいたときには病気が進行していた」という事態になりかねません。多くの飼い主様が「病院に行くほどではないかもしれない」と判断しがちですが、これは健康管理上のリスクになります。

問題③ ペット同士の関係性が健康に与える影響

犬や猫の多頭飼いでは、関係性の問題も出てきます。相性の悪い子同士が喧嘩をして思わぬケガをしたり、一方がもう一方にストレスを感じたりすることは珍しくありません。ストレスは免疫力の低下や食欲不振の原因にもなるため、飼い主様が意識して環境を整えてあげることが大切です。たとえば、隠れ家になるスペースを作ったり、トイレやベッドの配置を工夫したりすることで、ペット同士のストレスを軽減できる場合もあります。猫の場合、平べったいベッドよりも、すっぽり体を隠せるタイプのベッドのほうが安心して過ごせることが多いです。また、トイレの数を増やしておくことで、対立を避けることができる場合もあります。

健康管理のためにできることは?

こうした状況を改善するには、日々の健康管理に少し工夫を加えることが有効です。毎日の体重測定が理想ですが、それが難しい場合でも、定期的に記録をつけるだけで変化に気づきやすくなります。食事の様子をよく観察し、「以前より食べるスピードが遅い」「口を気にしているように見える」といった小さな変化を意識することも大切です。トイレの排泄物の状態をチェックする習慣をつけることも、病気の早期発見につながります。ペットの健康管理は「異変があってから」ではなく「日々の積み重ね」が大切になります。定期的な健康チェックを行うことで、病気の早期発見につながります。特に、多頭飼いをしていると、飼い主様の目がすべてのペットに行き届かないことがあるため、定期的に専門家の診察を受けることが重要です。また、ワクチン接種やフィラリア予防、ノミ・ダニ対策など、予防医療を徹底することで、健康を維持しやすくなります。多頭飼いの家庭では、一度に複数のペットの予防医療を行うのが難しい場合があるため、スケジュールを管理して計画的に進めることが大切です。

多頭飼い家庭には「訪問診療」も選択肢

訪問診療は、多頭飼いのご家庭にとって非常に大きなメリットがあります。まず、ペットの移動の負担を減らすことができる点が挙げられます。何匹ものペットを動物病院へ連れていくのは大変ですが、訪問診療なら自宅で診察を受けられるため、通院のストレスを軽減できます。特に大型犬や高齢のペット、病院嫌いの子にとっては、大きな安心材料となります。

また、訪問診療では獣医師が1頭ずつ丁寧に診察するため、病気の早期発見がしやすくなります普段と違う食べ方をしていないか、歩き方に違和感がないかといった細かい変化も見逃さずにチェックできます。トイレの問題や多頭飼い特有のストレスにも配慮したアドバイスを受けることができるため、ペットの健康を維持しやすくなります。

さらに、訪問診療では定期的な健康管理がスムーズに行えます。体重管理やワクチン接種、フィラリア、ノミ・ダニ対策などのケアも自宅で受けることができるため、スケジュール管理がしやすくなります。加えて、オンラインでの事前相談が可能な場合もあり、「ちょっと気になることがあるけれど、病院へ行くほどではないかも」といった状況でも気軽に獣医師に相談できます。

このように、訪問診療はペットと飼い主様双方の負担を減らしながら、より細やかな健康管理を実現するための選択肢として、多頭飼いのご家庭に最適な方法の一つといえます。

まとめ

多頭飼いは楽しい一方で、健康管理には注意が必要です。それぞれのペットの個別の健康状態を把握し、食事やトイレの管理を意識的に行うことが大切です。また、病気の早期発見のためには、日々の観察と定期的な健康チェックを欠かさないようにしましょう。動物病院への通院が負担になる場合は、訪問診療などの選択肢を活用するのも一つの方法です。ペットの健康を守るために、飼い主様ができることを少しずつ取り入れていくことが、長く健康に過ごしてもらうための第一歩になります。

カテゴリー: 訪問診療